今年最も売れた本は、岩崎夏海さんの『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』だそうだ。
『もしドラ』の愛称で親しまれ、リアル・ネットを問わず各所で話題沸騰。『もしリアルパンクロッカーが仏門に入ったら』といったような便乗本や、女子高生がMBAを学ぶ、といった同コンセプトの本も出るなど、出版界を席巻している。
iPadで配信中の電子書籍版も好評のようだ。こちらは単行本に比べ多少割安だ。
◆「萌え系入門本」に見えて、実はそうじゃない!
非モテタイムズでもこれまで何度か扱ってきたが、萌え系美少女を表紙に描き、本文に解説漫画やイラストを挿入することで、あるジャンルについてのオタク向け「入門本」を制作する、という手法が出版界にはある。
これは受験英単語をテーマにした『もえたん』以降、途切れることのない流れになっている。元素記号、戦車、株取引、古典文学、ナチスドイツなど、ほぼ「何でもあり」な状況だ。
『もしドラ』も一見そのパターンかと思わせておいて、実は違う。確かに表紙の女の子は可愛いし、小説仕立ての文章も簡単だが、オタクにしか通じない専門用語やふざけた悪ノリはなく、そもそも本文中にはイラストは数ページしか描かれていない。その上でドラッカーの「マネジメント」という概念を伝えきっている。
◆『ダイヤモンド』の読者の心をつかんだ「ドラッカー」
ここで表紙を見直すと、ヒロインの「みなみ」は確かに美少女だが、ポニーテールにセーラー服で背景は青空と、「可愛さ」「さわやかさ」はあっても「オタクっぽさ」は排除されているのだ。
この表紙デザインのおかげで『週刊ダイヤモンド』などの、ビジネス誌を購読する30代以上のビジネスパーソンに対して、『もしドラ』は「書店でレジにもっていってもあんまり恥ずかしくない」本だということが伝わったのだろう。
そもそも作中で言及される経営学者・ドラッカーは、マーケティングについても多くの著作を残している。『もしドラ』制作サイドは、まさにその身をもってドラッカーの「マーケティング」を実践して見せた、ということだろうか。
※TOP画像は、「Amazon.co.jp: もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら: 岩崎 夏海: 本」(http://www.amazon.co.jp/gp/product/4478012032)、中段画像は、「Amazon.co.jp: 萌える英単語もえたん: 渡辺 益好, 鈴木 政浩: 本」からの引用です。(http://www.amazon.co.jp/gp/product/4915540707)「Amazon.co.jp: もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら: 岩崎 夏海: 本」(http://www.amazon.co.jp/gp/product/4478012032)「Amazon.co.jp: 萌える英単語もえたん: 渡辺 益好, 鈴木 政浩: 本」(http://www.amazon.co.jp/gp/product/4915540707)
(小山内)
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小山内 聡(おさない そう)
漫画とアニメとゲームが好きで軍事オタクの文系大学生。趣味はノンフィクションを読むこと。はてなダイアリー『日の丸海賊団』で書評を書いています。
・http://d.hatena.ne.jp/kurohige-ossadot/
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